【短編小説】「0を1にした男」

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神沢 壮太(かんざわ そうた)24歳、無職。

彼には、履歴書に書けるような職歴も、特技も、肩書きもなかった。
でも、心の奥底にずっとくすぶっていた思いがあった。

「何かを成し遂げたい」

ただ、それが何なのかは分からなかった。

明確な夢があるわけでも、やりたい仕事があるわけでもなかった。

それでも、「0を1にしたい」という想いだけは、確かにあった。

父に話すと、呆れられた。

「まずは安定した仕事を探しなさい。0から1なんて非現実的なこと言ってないで」

友達には笑われた。

「0からなんて無理だよ。1を10にする方が可能性がある」

たしかにその通りだ、と彼自身も思った。
0から何かを生み出すなんて、自分にできるのだろうか——。

灰色の雲が広がる午後。彼は公園のベンチに座っていた。

雨が降り出したが、傘も差さず、ただじっと空を見上げていた。

壮太「・・・」

ぼーっとしていると、ひとつの傘が壮太を包んでいた。

「なにしてるの、こんな雨の中で」

そこに立っていたのは、幼馴染の同級生(有香)だった。

壮太は思い切って、自分の気持ちをぶつけた。

「俺、0を1にしたいって思っててさ。でも、みんなに無理だって言われたんだ」

彼女は一瞬驚いた顔をした後、ぱっと笑った。

有香「良いじゃん!やってみよ!」

壮太「え・・・?」

有香「目を覚まそうよ!今私が差してるこの傘だって、誰かが最初に作ったんだよ?
   私たちが出会った学校も、あの公園も、全部誰かが0から作った。

  「経験がないからできない? それって、矛盾してるよ!
   0から1。0の世界は誰もまだ経験したことがないんだから。

壮太の想いを肯定してくれた、初めての言葉だった。

彼はその夜、ノートを開き、ペンを走らせた。

「0を1にする」というテーマでアイディアを出した。

そしてふと思い出したのは、かつて遊んだ公園で、注意書きとして書かれていた言葉だった。

《この公園ではボール遊びは禁止です》

昔に比べて、今は自由に遊べる公園が減っていた。

子供たちが外で優雅に走り回る姿も少なくなっていた。

壮太「だったら、俺が作るんだ。子供たちが思いっきり走れる場所を——」

そこから、彼の1年にわたる挑戦が始まった。

地域の企業に頭を下げ、地元の体育館で下見を行った。

建築の知識は、設計士や大工、アスレチックの専門家の元で働きながら学んだ。

眠れぬ夜も多く、資金が足りずに何度も企画が止まりかけた。

それでも、あの雨の日の言葉が支えてくれた。

「0の世界は誰も経験したことがないんだから」

そして1年後。ついに完成した。

巨大室内型アミューズメント施設「ドリームフィールド」

天井は空のように高く、
サッカーコートとバスケコートに加え、ジェットコースターまで設置されていた。

オープン初日、彼はこっそり裏口から様子を覗いていた。
施設の中には、歓声と笑い声があふれていた。

0を1にしたということは、ただ形を作ったことじゃない。
誰かの心に希望を宿し、笑顔を生み出したこと。
それこそが、本当の「1」だったんだ。

壮太は、「0を1に変えた喜び」と「有香に対する感謝」の気持ちを抱きながら、
そっと目を閉じた。

雨に濡れたあの日とは違う、温かい涙が頬を伝っていた。

        

※この作品はフィクションです。
登場する人物・団体・出来事はすべて架空であり、実在のものとは関係ありません。
一部の文章や画像に生成AIを使用しています。