【短編小説】「命をつないだ紙飛行機」

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START

「寒すぎて、外に出るなんて考えられない」
それが、この町の常識だった。

平均気温は1℃。郵便も電話もまともに機能しない環境。

そんな町に暮らす人々は、昔からある独自の方法で、情報交換をしてきた。

―紙飛行機―

電話もネットも、寒さで頻繁に止まる。郵便も冬は来ない。
だから町民たちは、紙の内側に短い手紙を書く。それを家の窓から、風に乗せて飛ばす。

「鍋が余ったよ。食べにこない?」
「誕生日おめでとう!プレゼントは玄関に置いたよ!」

紙飛行機は、町の空にひらひらと舞い、家と家、心と心をつないでいった。

町の人々はその風景を誇りに思っており、
町長も、紙飛行機文化の第一人者として、子どもの頃からその風景を見て育ってきた。

だが――美しいものも、数が過ぎれば、負担となる。

紙飛行機の数は年々増え続け、今では1日数百通が飛ぶようになっていた。
屋根に、道に、雪の中に、飛ばしそこねた紙が積もっていく。

町長は悩んだ。文化を守るか、町の秩序を守るか。そして・・・

「紙飛行機を禁止します」

町は一瞬、静まり返った。

その日から、紙飛行機は空を飛ばなくなった。

町民たちは家に閉じこもり、誰とも話さず、誰の声も聞かず、ただ時間だけが過ぎていった。

町長は、それを見て、胸の奥が冷たく締めつけられる思いだった。

町長
「私は、町を壊したかったんじゃない」

なんとか外に出てもらおうと、彼はさまざまな試みを始めた。

広場での雪合戦大会。
焚き火を囲んでの温かいスープ配布。
雪像コンテストの開催案内。

けれど、誰も出てこなかった。チラシを配っても、返ってくるのは無言の玄関。

その日は風が強かった。町長は、誰にも応じられずに空を見上げた。

町長
「何も伝わらなかったな」

雪の上をゆっくり歩きながら、彼は静かにため息をついた。

だが、その瞬間だった。

胸の奥が、ドクンと鳴った。まるで心臓が強く怒っているようだった。

老人
「・・・あれ?」

視界が揺れた。次の瞬間、彼は足を止め、雪の中に崩れるように倒れ込んだ。

町長は、すぐに町民の手で近くの家へ運び込まれた。

布団にくるみ、体をさすり、声をかけ続ける。けれど、顔色は戻らない。

町民
「・・・医者、呼ばなきゃ……」

だが、この町には医者はいない。3キロ離れた隣町にはいるが、
吹雪の中を徒歩で向かえば、たどり着く頃には間に合わないかもしれない。

そのとき、一人の少年が、立ち上がった。

少年
「紙飛行機飛ばす」

まだ10歳にもならない、小さな彼の言葉に、大人たちは驚いた。

町民
「だめだ!」
「紙飛行機は禁止されたんだぞ!」

けれど、少年は真っ直ぐな目で、彼らを見返した。

少年
「そんな事言ってる場合じゃない」

言葉を失った大人たちの前で、少年は迷いなく紙を折り始めた。
雪の中でも凍えないように、しっかりと折り目を重ね、鉛筆で文字を書き込む。

『町長が倒れました。お医者さん来てください 町民一同』

風向きを確かめ、彼は手を伸ばした。

少年
「お願い・・・届いて!」

紙飛行機は風に乗り、白い世界を飛び越えていった。

時は流れ、13分後。

諦めかけたその瞬間、雪の道に、ブレーキ音が響いた。
一台の自転車が、風を切って現れた。

医者
「紙飛行機が届きました。町長はどこですか!」

町民たちは急いで案内した。
すぐに応急処置が行われ、町長の呼吸が安定する。

数時間後、彼はゆっくりと目を開けた。

最初に見えたのは、ベッドの前に座る少年の顔だった。

老人
「君が・・・飛ばしてくれたのか、紙飛行機」

少年
「うん・・・ごめんなさい。でも、助けたかった」

町長はかすかに笑った。

老人
「夢の中でね、君が空に紙飛行機を放つ姿が見えたんだ。本当にありがとう」

数日後、町長は町の広場に立った。寒空の下、それでも人々は集まっていた。

老人
「私は・・・紙飛行機を禁止したことで、皆を傷つけてしまったかもしれません。
 ですが、あの少年の行動で気づきました。空を飛ぶ小さな紙には、命を救う力がある」
 
「紙飛行機を復活させます。そして、もっと安全に、確実に届ける方法を、皆で考えましょう」

拍手が、雪を溶かすように広がった。

人々は、町長が“紙飛行機を奪った人”だと思っていたが、違った。

彼は、ただ「外で、皆と過ごしたい」と願っていただけだった。

やがて町民たちは、外へ出るようになった。

それから、町は急速に変化していった。

紙飛行機文化を基盤にした情報ネットワークが整備され、外部からも注目を集めるようになる。
「風を読む町」として観光地となり、研究者や企業も集まるようになった。

町の中心広場には、一機の巨大な紙飛行機のオブジェが置かれていた。

その台座には、静かにこう刻まれている。

「たった一枚の紙が、命をつなぐ」

飛ばすたび、誰かの声が届くたびに、町はまた少し、生きていく。

END

   

※この作品はフィクションです。
登場する人物・団体・出来事はすべて架空であり、実在のものとは関係ありません。
一部の文章や画像に生成AIを使用しています。