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この町では、毎週土曜日にひとつの伝統的なイベントが行われていた。
「芋掘り対決」
町民たちが集まり、芋を掘り当てる。
だが、優勝を手に入れるのは、毎回あの2人だった。

一人は、芋掘りの申し子と呼ばれる男、
焼芋 瞬太(やきいも しゅんた)
少年時代、祖父とともに畑で過ごした日々の中で、「芋の気持ちを読む」力を会得している。
土から芋の気配を探り当てる。

もう一人は、完全実力者と呼ばれている、
早堀 楓(はやほり かえで)
代々、芋農家の家系に生まれ、芋に人生を捧げてきた女性。
スピード、正確さ、気迫。全てが規格外。
そんな2人が、ここまで99回に渡り、優勝を争ってきた。
戦績は、焼芋瞬太:55勝、早堀楓:54勝

そして、今日。いよいよ第100回大会の幕が上がる。
今大会の優勝者には、「日本一周チケット」が贈られる。
町長
「第100回芋掘り対決・・・開幕です!」
鐘の音とともにスコップが唸る。
瞬太と楓は、他の参加者を置き去りにするように、一心不乱に土を掘る。

まるで芋を呼び出すような手つき、研ぎ澄まされた動き。
5分、10分、30分――
掘った芋の数は、互いに一歩も譲らず。誰の目にもわかる、極限の戦いだった。

あっという間に時間が過ぎ、残り3分。お互い、掘り当てた芋の数は同じ30個。
そして、最後の最後に瞬太が31個目を見つけた。
心の中で喜ぶ瞬太の横には、膝ついていた男がいた。
瞬太の親友である、良太。
彼は、50分以上掘り進めているが、芋を見つけることが出来ず、落ち込んでいた。
良太
「なんで俺だけ・・・」
その姿を見て、瞬太はふと、ある記憶が脳裏をよぎった。

10年前、祖父に言われた言葉――
祖父
「瞬太、芋掘りで一番大切なのは、思いやりだよ。みんなが楽しまないとね。」
その記憶が、瞬太の肩を押した。

良太が「ちょっと休憩」と言ってその場を離れた瞬間、
瞬太は静かに、先ほど掘り当てた芋を良太が掘っていた場所へと埋めた。
瞬太
「これでいい」
1分後、戻ってきた良太が、スコップで掘る。

良太
「うおおおおおお!出たっ!!!出たぞ芋ォォ!!」
涙ぐむ良太。瞬太は静かに笑顔になった。

だが、その一瞬のタイムロスが決定打となり、楓が31個目を掘り当てて、優勝した。
瞬太は、日本一周よりも、思いやりを選んだ。

その夜。掘り当てた芋を瞬太と良太は並んで食べていた。
良太
「この芋、今までで一番美味いな!!」
瞬太
「だろ?最高なんだぜ芋は!」
瞬太は、最後に強い絆を掘り当てた。
END