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2027年の夏。外は連日35度越えの猛暑。
そんな過酷な暑さとタイパを重視する現代人達は、昼休みはもちろんオフィスで過ごす。
そんな中・・・一人だけ化け物がいた。

水通 一輝(みずどおり かずき)、勤続3年目。
昼休みの一時間、彼は近くの公園で毎日サッカーをしていた。
しかも一人で、スーツ姿のまま。
社員用ロッカーには、常にボールが置いてある。会社にマイボール。意味がわからない。
「まだ学生気分抜けてないんだよ、あの人」
「やる気があるのかないのか、わかんないよね」
そんな声が社員たちの間で上がった。

一方、毎日楽しそうな一輝とは裏腹に、会社の雰囲気は最悪だった。
売り上げは伸び悩み、上司はピリピリ。
ミスがあれば、責任のなすり合いが始まり、
昼休みですら、話題は「効率化」「目標」「誰が悪い」
それでも、あの男だけは、そんな流れに負けなかった。
月曜も火曜も金曜も、炎天下の中、一人でボールを蹴り続けていた。

ある日、山岡という社員が、取引先との仕事で重大なミスをしてしまった。
謝罪は済んだものの、損失は大きく、社内では彼の進退を問う声も上がっていた。
山岡は昼休み、そんな会社の雰囲気に耐えられず、公園のベンチに座っていた。
弁当は開けられず、ただぼんやりと空を見上げていた。その時・・・

「あれ、山岡さん!」
目の前に現れたのは、一輝だった。汗まみれでボールを抱えて、笑っていた。
一輝
「良かったら、一緒にサッカーしましょうよ!」
山岡
「・・・いや、そういう気分じゃなくて」
そう断ると、一輝は少しだけ笑って、こう言った。
一輝
「じゃあ、見ててください」

そう言って彼は、ボールを地面に落とし、リフティングを始めた。
足の甲、太もも、肩、頭・・・身体全体を使って、滑らかに軽やかにボールを扱う。
山岡は、その光景を見た時、ハッと思った。
いつの年齢になっても、いつの時代でも、いついかなる時でも、遊び心を持つことの大切さ。
売上に縛られた山岡にとっては、この遊び心が欠落していた。

この日から、山岡は数字だけに囚われず、顧客との関係、話し方、空気の流れなど、
多角的に仕事を見るようになった。
そして、営業成績ランキングは、最下位から3か月で1位へと駆け上がった。
もちろん昼休みは毎日、一輝と一緒にサッカーをしている。

時が経つにつれて、少しずつほかの社員も公園に顔を出すようになり、
数か月後、社員20人全員が、公園でサッカーをするようになっていた。
他人の顔を伺わず、自らのやりたいことを行う一輝の生き様に、社員は圧倒された。
会社の雰囲気を変えたのは、論理的な社員ではなく、シンプルな男だった。
ただ、楽しい日々が変化しないとは限らない。
次の日の昼休み、いつものように社員全員が公園でボールを追いかけていたその時。
空に何かが光った。

巨大な隕石が公園に向かって接近していた。
パニックに陥る社員達をよそに、ただ一人、涼しい顔をしていた男がいた。
一輝
「この窮地の解決策はシンプルです。隕石を跳ね返せばいい。」

そう言って彼は、サッカーボールをひと蹴り。
それは、まるでロケットのように空を駆け抜け、隕石に命中。
隕石はその衝撃により進路が変わり、空の彼方へと消えていった。
一輝は汗をぬぐいながら、いつもと変わらない笑顔で言った。

一輝
「さ、続きやりましょうか」
END