【長編小説】KEYSTROKE ─ 第9話「模擬戦」

part9 長編小説

      

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KEYSTROKEの作戦が明かされた翌日、研究室の空気は一変していた。

雑談も笑顔もない。そこには静かな熱があった。

老人からは、5人共通のノルマが告げられていた。

「1日13時間の特訓、8時間の睡眠―――これを年中無休」

あまりに過酷なルールだが、5人からすれば当たり前のノルマだった。

それぞれの特訓内容

■裂波 瞬

部屋の片隅、仮想システムへの侵入シミュレーションが並ぶ端末の前で、瞬は笑っていた。

「ほら来た。VOICELINKのパターン、今回も同じ・・・ここを先回りして、侵入成功っと」

瞬は、退屈しつつも満足げな様子だった。

■氷堂 結花

瞬の横では、氷堂結花が淡々と膨大な情報から勝利予測をしていた。
終打の過去のタイプログ、敵AIの処理傾向、システム反応時間――

「0.4秒のラグ、ここで一度、敵AIが止まる」

結花の指先が、ある座標を指す。

「ここが終打くんの”一打”を最大化できるポイント」

結花の訓練は、戦況を”見える化”する繰り返しだった。

■綾月 慎一

壁際のホワイトボードに向かい、慎一は独り言のように呟いていた。

「この状況でclearが狙うのは”ミスの誘発”・・・これを逆手に取り、選択肢を増やす」

彼の頭の中では、VOICELINKとの仮想戦場が映っており、敵のリズムを伺っている。

「見えてきた・・・”声”の先を読む切り札は、やはり”琴葉”・・・」

■早打 琴葉

対話AIとのセッションルームで、琴葉は何度もキャッチボールをしていた。

「あなた怖くないの?間違った命令を受けて、取り返しのつかないことをするのが」

AIは数秒考え、「怖い、とはどういう意味ですか?」と返した。

「うん。わからなくていい。私はその”分からなさ”と向き合う練習をしてるの。支えるために。」

■斉堂 終打

タイピングルーム。終打は周囲の音を完全に遮断した空間で、ひたすらタイピングをしていた。

痺れる様なタイピング音に動揺せず、冷静に打ち込んでいた。

モニターには、比較用の訓練プログラムが表示されている。

課題
「AIは新しい世界を見せるのか」

【音声入力】

音声指示発声時間(平均):1.6秒+音声認識AI応答処理:0.9秒= 合計 2.5秒(AI実行時間)

【タイピング入力(斉堂終打)】

タイピング時間:1.1秒+タイピングAI応答処理:0.6秒= 合計 1.7秒(AI実行時間)


終打のタイピングは、音声認識でのAI実行時間を0.8秒も上回っていた。

彼は満足することなく、次の課題に取り組んだ。

特訓を開始して半年が経過した日の夜に老人からあることが伝えられた。

老人
「そろそろ模擬戦やってみようか」

その一言に、5人の足が震えつつ、気持ちが高ぶった。

用意されたのは、
VOICELINKが実際に使っている音声認識AIを模倣したAI「実験機108」だった。

そして、指示するのは老人。つまり、

【模擬戦】
KEYSTROKEの5人&タイピングAI  VS  老人&音声認識AI「実験機108」


この模擬戦の内容を把握した5人は、五分五分の戦いになる。そう思っていた。
なぜならKEYSTROKEメンバーは、
それぞれの分野の全国一位が取れる水準まで成長していたからだ。

だが、こんな幻想は開始1分で打ち砕かれる。

【模擬戦開始】

敵陣営

老人の指示で、実験機108が仮想システムの侵入を試みる・・・1秒後成功。

KEYSTROKE陣営

成功をモニタリングしたKEYSTROKE陣営の裂波瞬が
同じシステムへ別ルートで侵入を試みる・・・10秒後成功

氷堂結花が「実験機108」の座標を仮想システム内から突き止める・・・30秒後成功。

敵AIの座標を突き止めたKEYSTROKEは、綾月慎一の指示で、瞬時に戦闘配置を展開。

慎一
「瞬は1分間セキュリティを固めてくれ。結花は敵AIの欠陥を探ることに集中してくれ。
 そして終打は・・・!!」


敵陣営

老人
「実験機108よ、セキュリティを固めつつ、システム内の情報をinputしなさい」



KEYSTROKE陣営

結花
「相手のAI挙動が変わりました。複数の反応に散らばり、本物測定不能です・・・」

敵陣営

老人
「よし、input完了だ。仮想システムからの離脱実行」

KEYSTROKE陣営

5秒後、結花のモニターから、AIの反応が消える。



――――――――――――模擬戦終了―――――――――――ー

勝者:老人&音声認識AI「実験機108」

別室にいた老人が、5人の前に戻り、伝えた。

老人
「まあ、現段階ではこれくらいの差があって当然だから、切り替えて特訓だよ。
 共通のノルマを再設定する。」

「1日13時間の特訓、8時間の睡眠―――これを年中無休」
            ↓
「1日12時間の特訓、8時間の睡眠、1時間のグループディスカッション――これを年中無休」


ノルマの変更内容に、瞬が口を開いた。


「話すより、手を動かした方が良いのでは?」

老人
「AIのスピードに対抗するには、”速度”だけではなく、”意図の一致”が必要。
 その共有を怠れば、どれだけ緻密に寝られた計画も崩れる。」

そう言われた5人は、少し不満げな表情をしながら、翌日再スタートをした。


※この作品はフィクションです。
登場する人物・団体・出来事はすべて架空であり、実在のものとは関係ありません。
一部の文章や画像に生成AIを使用しています。