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VOICELINKとの決戦まで残り1週間。
静まり返った金曜日の昼に、老人は静かに封筒を5人に渡した。
老人
「今日の夜から日曜日まで、これで楽しんできて!」
封筒の中身を見ると、2泊3日の旅行チケットだった。
研究室の空気が一瞬止まった。

終打
「なぜ今、旅行を・・・?あと1週間なんですよ!!」
老人
「決戦の前に、心を癒してきてほしい。疲れたままでは、大切なものを見失ってしまう」
戸惑う5人をよそに、老人はただ、静かに微笑んでいた。
KEYSTROKEメンバーは、老人の優しい眼差しに感化され、旅行に行った。

飛行機に2時間、さらにフェリーで3時間。
5人が着いた場所は、人口わずか50人ほどの穏やかな環境、「千景島」だった。

島の旅館に到着し、部屋で少し休憩し、終打がふと思い立ったように口を開いた。
終打
「そういえば、最初から研究室にいた3人は、老人とどこで出会ったんですか?」
その問いに、慎一が静かに微笑んだ。

慎一
「終打と同じだよ。それぞれのfes優勝者が、ここにいるんだ。
俺は2025年、“Tactics-Fes”。AIとの戦術設計と心理分析の頂点を決める大会だった。
優勝した時に、あの老人が突然現れて、「君の視点は必要」と言い、引き抜かれた。」

瞬
「俺は2028年、“Break-Fes”。システム介入と突破の応用力を競う大会。」

結花
「私は2031年、“Data-Fes”。リアルタイムの可視化処理と分析精度を競う内容だった。」

終打
「なるほど、VOICELINKと戦う為に必要な力を、3年おきに探していたということですね。
そして、2034年に、“Type-Fes”」
この話を静かに聞いていた琴葉が、ぽつりとつぶやく。
琴葉
「最初のfesが始まった2025年近辺から、VOICELINKの攻撃が始まったということ?
10年前から存在している集団なのに、私達の誰も、存在を知らなかった事が気になります。」
慎一が、落ち着いた表情で答えた。
慎一
「確かに。決戦が終わったら老人に聞いてみよう。」
話題が変わり、瞬の子ども時代の話や、結花の好きなスイーツの話で盛り上がった。

千景島での旅を終え、KEYSTROKEの5人は研究室へ戻ってきた。
残された時間は、「5日」。
5人はそれぞれの最終調整に取り掛かっていた。
終打は、AIの反応遅延を0.01秒短縮するために、命令のテンプレを一行ずつ見直していく。
琴葉は、音声の抑揚や速度を変化させたテストを何百通りも録音し、音声認識の復習をする。
結花は、過去のログを一から再分析し、少しのノイズも見逃さないように集中している。
瞬は、想定される侵入経路すべてに対する対策をシミュレーション。
慎一は、4人の背中を見て、「絶対に勝たないといけない」という覚悟を刻んだ。
いよいよ決戦が始まる。