【短編小説】水が一番美味いと言い張る男

water 短編小説

     

START

「水が一番美味いに決まってるだろ!!!なぜそれが分からないんだ!」

佐野 潤一(さの じゅんいち)は今日も熱く語っていた。

彼の手には、冷えたミネラルウォーターのボトル。

炭酸も甘味もないただの水を、彼はまるで高級ワインのように味わって飲む。

「お前さ、またそれ言ってんの?」
「たまにはジュースでも飲めよ、人生損してるぞ?」

周囲の同僚たちは苦笑交じりにからかう。
現代は健康志向といえど、人工甘味料やカフェイン入りの飲料が主流。

ジュースやエナジードリンク、抹茶オレまで手軽に楽しめる時代に、
「水こそ最高」と言い張る潤一の主張は、一目置かれた。

ある日、会社の行事で登山が企画された。参加メンバーは、潤一を含む5人。

出発前、潤一は一人だけリュックにミネラルウォーターを何本も詰め込み、
他のメンバーは十人十色のラインナップだった。

「俺は冷やし緑茶だ。苦みが私を強くする」
「僕はレモンサワーと、エナジードリンク3本」
「私はリンゴジュースとはちみつレモン!」
「ブラックコーヒーでしょ。山にはこれが合うんだよ」

登山が始まった。晴天に恵まれ、空気も澄んでいる。
頂上へ近づくにつれ、会話も弾んだ。

そして、とうとう山頂に辿り着き、そこから見る絶景に全員が感動した。

満足した5人は、達成感とともに下山した。
しかし、陽が傾き始めるにつれて、霧が出始めた。

「あれ・・・この道、来た道と違くない?」
「こっちじゃなかったけ」

・・・

潤一
「遭難だなこれは・・・」

あっという間に夜になり、持ってきた飲み物は全てなくなり、喉の渇きは限界を迎えていた。

メンバーが絶望して声も出せなくなってる中、潤一はひっそり山の音に耳を傾けていた。すると、

潤一
「・・・水の音だ」

音に向かって全員が駆け寄ると、そこには澄んだ湧き水が流れていた。

潤一は、湧き水の安全性をしっかり確認して、手ですくって飲み込んだ。

潤一
「やっぱり、うまいな」

他の4人も迷わず飲んだ。

「これ、今までで一番美味しい」
「この味を、僕たちは忘れていた」

そんなメンバーの感想に、潤一は思わず一言。

潤一
「世界一美味い飲み物を、絶体絶命の状況で飲める。最高だ。
 だからこそ、絶対に帰ろう。もう一度、この味を楽しむために。」

その言葉に力をもらい、全員で下山を目指す。そして、ついに山を抜け出すことに成功した。

明日がない絶望から、明日を歩める希望へ変わった5人は、持ってきていた花火で、祝福した。

4人は潤一に感謝した。

「本当にありがとう。潤一の覇気が私たちをもう一歩前へ進ませてくれた」

潤一
「助けてくれたのは、あの時の湧き水さ。感謝してもしきれない」


だが、幸せは続くものではなく、いつか終わりが来るもの。


パチッ・・・

一筋の火花が、地面の乾いた草に跳ねた。すぐに、草が赤く染まり、火が走った。

「火が・・・燃え移った!? やばい、火事になる!!」

一難去ってまた一難というように、絶望が蘇る。

諦めかけたその時、潤一が水のボトルを取り出し、火に注いだ。

火は瞬く間に静まった。

感謝する4人の前で、一言。

潤一
「水は、どんな時でも人類の助けになる。だから、好きなんだ。」
      

END

※この作品はフィクションです。
登場する人物・団体・出来事はすべて架空であり、実在のものとは関係ありません。
一部の文章や画像に生成AIを使用しています。