【短編小説】「完璧主義を捨てた私」

perfect-no 短編小説

     

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完前 未来(かんぜん みく)、23歳。名前に負けない完璧主義者だった。

学生時代から、何事も完璧にこなすことに誇りを持っていた。ミスは敗北。手を抜くことは怠慢。
そんな思いを胸に、営業職として働き始めた。

「絶対にトップになる。商談では一度もミスをせず、絶対に承諾をもらう」

すべてを完璧に――。それが、私の社会人としての心構えだった。

だが、理想と現実の距離はなかなか縮まらなかった。

お客さんのために一生懸命資料や話を準備しても、反応は薄く、成果は思うように出なかった。

悔しくて、何が足りないのかを徹底的に調べた。

「営業 成功のコツ」「契約を取る方法」など、全ての情報をネットで読み漁った。

そして、完璧な準備を整えて挑んだが、結果はほとんど変わらなかった。

そんな私に、上司が優しく声をかけてくれた。

上司
「未来さん、最初は誰だって苦戦するから、全然気にしなくていいよ。」

――その、悪気ない言葉が、私にとってはプレッシャーになった。

最初は苦戦してもよい=年数を重ねれば必ず結果を出さないといけない。

私は、そう受け取ってしまい、さらに”完璧”を追い求めてしまった。

この完璧主義は、仕事だけでなく、健康、生活、すべてにおいて適用された。

食生活では、ネットで書いてあった情報「一日3食、同じ時間に、栄養バランス良く」

この言葉も、健康的な食事をしましょう=不健康な食事をしてはいけない。

と、過剰な解釈をしてしまい、友達に食事に誘われても断るようになった。

さらに、私を追い込んだのは「睡眠」だった。ネットの情報にまた心が動かされ、

1日8時間睡眠が理想=8時間取らないと体調を崩す。

と受け取った。

食事に関しては、自分の行動で決定することが出来るので、まだ心は保っていたが、
睡眠は自分の意志ではどうにも出来ない。
むしろ、寝ないといけないことが、逆に睡眠から遠ざけてしまう。

案の定、完璧主義が発揮され、睡眠時間も減っていった。

ある日、出社してパソコンに向かっていると、涙がこぼれた。
どうすれば良いのか分からないことが、感情として出てしまった。

そんな私を見て、社長がそっと声をかけてきた。

社長
「大丈夫?少し、一緒に話そうか」

私の心に驚きと焦りが走った。結果を出せてない現状に怒られると思っていた。

別室に通され、向かい合って椅子に座ると、社長は穏やかに言った。

社長
「何か辛いこととか、きついこととか、全部話していいですよ」

私は解雇を覚悟し、話した。

眠れない夜、極端な生活、頑張っても結果が出ない現状、全て。

社長は静かに頷き、こう言ってくれた。

社長
「睡眠も、食事も、仕事も。どれも大切だけど、“完璧にやらなきゃ”って思い詰めてしまうと、   
 心が壊れてしまう。

 眠れない日もある、予定通りにいかない日もある。友達とご飯を食べるのだって、
 十分意味があるよ。
 
 営業の仕事もね、契約が取れるかどうかは相手の意思に委ねられる。
 自分ではコントロールできないんだ。
 
 だけど、それでいいんだよ。ほどほどで。人間もいつか終わりは来るから。」

その言葉を聞いた瞬間、私は初めて「許された気」がした。

私は、不安を感じても、すぐに検索するのをやめて、不安を受け入れた。
それでも辛いときは、友達や上司に相談するようになった。

私の周りには、支えてくれる人がいる。
話を聞いてくれる上司、ご飯に誘ってくれる友達、向き合ってくれた社長。

私は“理想”より”今”を大切に生きることを覚えた。

けれど、また壁にぶち当たった。

「昨日は5時間しか寝られなかった。いや、でもいいんだ。気にしない気にしない!」

「不安が来た。あ、でも絶対に検索しちゃダメなんだ!」

「食事なんて気にしないで良いんだ!」

私は、完璧主義を捨てる事を完璧に行おうとしていたのだ。

その事実に気付いた未来は、「どんな自分も否定せず、優しく受け止める」事にした。

時々ネット検索もするし、睡眠にこだわる日もある。完璧を目指す日だってある。

今の私を愛すことにした。
    

END

※この作品はフィクションです。
登場する人物・団体・出来事はすべて架空であり、実在のものとは関係ありません。
一部の文章や画像に生成AIを使用しています。