【短編小説】「他人軸なんて、もう捨てた。」

self 短編小説

      

START

22歳の春。桜が咲き始めた頃、私は実家を離れて、新しい環境での生活を始めた。

新卒で入社したばかりの会社、まだ名前も覚えきれていない駅。

慣れないスーツで毎朝ぎこちなく歩く私は、この世界に一人きりのような感覚だった。

地元にいた頃は、いつも誰かがそばにいた。

学校帰りにカフェで話した友達、リビングでテレビを見ながら笑っていた家族。

そんな「当たり前」が急になくなり、今はアパートのワンルームで、静かな空気が広がる。

私の相手はスマホだけ。それなのに、通知は滅多に鳴らない。

会社では、少しずつ話せる同僚も出来てきた。

最初は嬉しかった。ランチに誘われたり、一緒に帰ったり。

けれど、距離はなかなか縮まらない。

月曜の朝、「今週の土曜日って空いてる?美味しいラーメン屋さんがあるの!」
とメッセージを送った。

けれど、返信が来たのは金曜日の夜だった。

ただ、その間にSNSには楽しげな飲み会の写真がいくつも投稿されていた。

私の存在なんて、気にも留めていない。そう思った。

ある日の帰り道、夜の空を見上げた。

寒い風が顔にあたって、目が覚めるような気がした。

そして、気づいた。

――私、他人に合わせすぎてた。
――他人の顔色ばかり見て、心をすり減らしてた。

もう、やめよう。私がかわいそう。

私は、自分のやりたいことをやる!!!!!!

私は、ずっと興味があったボルダリングを始めた。

初めてジムに足を運んだ時、緊張したけど、その気持ちを軽くしてくれた青年と出会った。

私はその人に、クライミングのコツを教えてもらったり、優しくしてもらった。

別れ際、思い切って連絡先を聞いた。すると、

青年
「SNSやってないんです。電話番号しかないんですよ・・・」

有海はその瞬間、少し既視感を感じた。

理由と尋ねると、彼は静かに笑った。


「他人軸で生きることに疲れちゃったんです」

私はこの人と価値観が合うと思い、一緒に人生を歩んでいきたいと思った。

ついに、彼とは付き合い始め、幸せな日々が始まる!!


と思ってた。

ある日、彼と登山に出掛けた時、山火事が起きた。

周囲は煙と炎に包まれ、唯一の逃げ道は、岸壁だった。

私は絶望して、足がすくみ、動けなくなった。

でもこんな時でも彼は強かった。


「よし、いつもボルダリングしてる要領で登ろう!」

明るく励ましてくれた。

その結果、登り切った。

自分軸で生きるようにした私だからこそ、助かった命。

有海
「さあ、これから楽しもー!」

月日が流れ、彼は転勤になり、私たちは遠距離になった。

最初は、「どんなに離れても大丈夫」と信じていた。
月末に会う計画を立て、電話をして、写真を送り合って――そうやって繋がっていた。

けれど、3か月が経ち、何かが少しずつ変わっていった。

メッセージを送っても、返事は短く、どこか冷たくなった。

「忙しいから」と言われれば、それまでだけど、胸の奥に引っかかるものがあった。

距離だけでなく、心までも遠くなっていくような気がした。

私は不安に駆られ、何度か問いただした。

「最近どうしてるの?」
「何かあった?」


本当は言いたくなかったけど、言わずにはいられない。怖いから。

そのたびに帰ってくるのは、無難な返信。

気づけば、私はまた人に執着して、自分を見失いかけてた。

私の人生は、私のもの。誰かに依存して、感情を左右されてばかりの私は、もう終わり。

彼を責めることも、自分を責めることもやめた。

無常。全ては変わっていく。それが自然なこと。

私は、再び自分軸を見つめなおし、登りたい壁があるなら、自分の足で登っていくようにした。

私がいる場所は、いつも私の内側にある。   

END

※この作品はフィクションです。
登場する人物・団体・出来事はすべて架空であり、実在のものとは関係ありません。
一部の文章や画像に生成AIを使用しています。