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メンバーの紹介が終わり、終打達は、別室に案内された。
そこには、スクリーンに”VOICELINK”と表示されていた。
老人
「さて、KEYSTROKEの主要メンバーが揃ったところで、
現在私がつかんでいるVOICELINKの情報を共有するよ。
まず、彼らは10人で構成されている。全て音声認識技術のプロだ。
そして、リーダーは、”clear(クリア)”と呼ばれている。
彼らの標的は、主に企業のセキュリティ情報だ。
音声認識でAIに指示を出し、素早く情報を抜き取っている。
そして、彼らにはある”奇妙なルール”がある。それは、金曜の夜しか活動しないのだ。
毎週金曜、20時。ぴたりとその時間にだけ、確認されている。」
琴葉
「・・・どうしてその時間に?」
老人
「理由はおそらく、人間が最も気が緩む時間だからだ。
金曜の夜、仕事終わりの社員達は飲みに出かけ、オフィスは空になる。
その間、企業のセキュリティも最低限のAI監視に任されている。
その最低限のAIは精度が低く、VOICELINKは簡単に破ることが出来る」
琴葉
「じゃあ、金曜の20時だけ“セキュリティに強い人間”を配置すれば、済む話では?」
老人
「そうだね。今現在ならその対策で上手くいく。だが、AIの成長は人の想定を遥かに凌駕する。
おそらく、あと1年でセキュリティのプロでも太刀打ちが出来なくなるほどに成長する。
だからこそ、この1年。君たちにはそれぞれ自分の能力に磨きをかけてほしい。」
老人
「ここからは、私たちがどうやってVOICELINKと勝負するかを説明する。」
全員の視線が、老人の言葉に集中する。

老人
「まず、VOICELINKが企業のシステムに侵入した瞬間、その同じシステムにこちらも侵入。
その後、彼らと鉢合わせし、相手のAIをこちらのAIで“正面から”ハッキングし、制圧する。
つまり、我々の任務は“システムの守備”ではなく、“敵AIの無力化”にある。
言い換えれば──AI対AIの中枢戦。どちらがより速く、正確に指示を与えられるかの勝負だ」
老人
「この状況を成立させるには、緻密な役割分担が必要だ。」
老人
「まず、裂波 瞬。君は、VOICELINKの侵入と同時に、別ルートからそのシステムへアクセスし、 我々のフィールドを確保する。彼らと同じ舞台に立つための突破口を、君の手で開け」
「次に、氷堂 結花。君はシステム内の情報の流れ、AIの挙動、敵の指示傾向などを即時解析し、
全員が同じ“状況認識”を持てるように可視化する。その認識が、勝敗を左右するんだ。
「次に、綾月 慎一。君はその可視化された情報を元に、誰がどこを狙い、どこを守るべきか、
戦況全体の指揮を執る。敵のリズムを読み、こちらの最適手を瞬時に判断する──司令塔だ」
「そして、早打 琴葉。君には、AIの“感情領域”と、終打の精神面をサポートしてもらう。
音声認識の唯一の欠点は、人の余計な思考も指示に反映されてしまうことだ。
琴葉は、そうした人の声に宿る“揺れ”に、誰よりも敏感に気づける。
その感性こそが、音声に対抗する最大の力になる。
あとは、終打の心のサポートをお願いしたい」
「最後に、斉堂 終打。君は、4人の融合した力を、“タイピング”という形でAIに命令として通す。
音より速く、感情より正確に、AIを動かす唯一の手段、それこそがタイピングだ。
君の一打が、clearの“暴走”を封じる鍵となる。」
「以上が、こちらの作戦だ。
この1年が、すべてを決める。VOICELINKを止めるには、それだけの“準備”がいる」
老人はそう締めくくると、スクリーンを消した。
老人
「来週から、訓練を開始する。皆、心と体の調和を図ってくれ。」
その瞬間から、KEYSTROKEの本格的な活動が始まった。