【短編小説】「報連相しまくる男」

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入社1年目の夏。

連相 報太は、誰よりも「報連相(報告・連絡・相談)」を重んじる男だった。

報太
「おはようございます!今からトイレに行ってきます!おおよそ3分ほど席を離れます!」

「今、左の席から右の席へ5メートル移動します!途中でコーヒーを取りに給湯室へ寄ります!」

報太の朝は、そんな宣言から始まる。

メール、口頭、時には社内チャットまで駆使する。彼の一日は“報連相”で埋め尽くされていた。

報太
「すみません、社内掲示板の掲示が少し曲がっていたので、直しました!」

先輩社員たちは最初のうちは感心していた。

社員
「いやあ、報太くん、しっかりしてるなあ」
「最近の若い子にしては珍しいよね、ちゃんと報告してくれるなんて」

しかし、日が経つにつれて、社内の空気は次第に重くなっていった。

椅子を直したこと、昼食のメニュー、果てはアラームで起きれたことまで報告してくるのだ。

上司
「報太くん、もう少し自分で判断して動いてくれるかな・・・」

報太がここまで徹底するのには、理由があった。

中学時代の理科室。

掃除当番だった報太は、薬品棚のガラス瓶がわずかに傾いていることに気付いた。

だが、「大したことないだろう」と誰にも言わなかった。

翌日、親友の達也がその薬品棚の前で実験の準備をしていた。

達也
「おい、報太ー!この薬品、どこにあったっけ? ・・・あっ!!」

その瞬間、ガタッという音とともに、ガラス瓶が棚から落ちた。

達也はとっさに避けたが、瓶は床に落ちて割れた。

幸い、ケガはなかった。だが、先生が駆けつけ、授業は中止に。

先生
「昨日の時点で瓶が不安定なことに気づいてた人はいないのか?」

報太は、怒られることを恐れ、手を挙げられなかった。

下校途中に達也から一言。

達也
「俺、ちょっと怖かったわ・・・もう少しで当たりそうだった」

報太はまた、何も言えなかった。

その日から、報太は変わった。

報太
「言いすぎでも、やりすぎでもいい。黙るくらいなら、伝える」

――その信念が、今の報太をつくっていた。

現在に戻り、月曜日の午後3時12分。

報太はコピーを取りに行った帰り、給湯室の奥でふと足を止めた。

焦げたような匂い。よく見ると、配線の隙間からうっすらと白煙が立ち上っていた。

報太
「これは・・・っ!」

気づいた報太はすぐに社内チャットを打った。

《給湯室の配線に異常あり。至急、全員避難してください。消防署に通報しました。 報太》

      

オフィスがざわついた。

社員
「また報太かよ。こんなことで騒がれたらキリがない」
「避難?仕事が止まるじゃないか!」

それでも報太は叫んだ。

報太
「今すぐ外へ!あと分でも遅れたら、本当に危ないかもしれません!」

社員は渋々、外へ移動した。

外は蒸し暑く、誰もが報太を睨んでいた。

社員
「時間の無駄だよ・・・」

報太の手は震えていたが、避難が成功し、少し安心している。

午後3時20分。消防車が到着。

消防士が給湯室を調べると、表情が一変した。

消防士
「すぐに電源を落として!配線内部でショートが起きてる!」

早急に隊員が対応し、何とか火災を防ぐことが出来た。

消防士
「このタイミングで通報してくれて正解でした。素人には対応が難しい状況でした。
 あと5分遅れていたら、確実に引火していたでしょう。」

報太
「迅速な対応、ありがとうございました!」

この一言に、社員全員が感銘を受けた。

次の日、会社の新たな経営理念が掲げられた。

『大げさぐらいの報連相を徹底』

        

※この作品はフィクションです。
登場する人物・団体・出来事はすべて架空であり、実在のものとは関係ありません。
一部の文章や画像に生成AIを使用しています。