【短編小説】「映画が観れなくなった男」

movie-cannot 短編小説

      

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佐々木悠、25歳。東京の会社で働いている普通の男だ。だが、最近変わったことがある。

――映画が、観れないのだ。

いや、観ようと思ってる。観たくないわけじゃない。話題の映画も興味あるし、ストーリーに感動したいとも思ってる。

だが、座っていられない。開始3分、いや、正確に言えば最初の「劇場マナーを守ろう」って
映像が流れた時点で、すでにソワソワしてる。

「もう映画館から出たい…」

こんなこと、誰にも言えなかった。

原因はなんとなくわかってた。
毎日スマホで短い動画を見てばかりいたからだ。1分で笑えるやつ。15秒で感動するやつ。
毎朝、ベッドから出るまで30分間、指がスクロールしている。

満たされてるようで、物足りない。
全てが”すぐ終わる”ものばかりで、深く残らない。悠にとって映画は重すぎる存在になっていた。

「このままじゃ、やばいな」

映画どころか、本も読めない。人の話も途中で気が逸れる。仕事だって、集中力が続かない。
気づいたら、頭の中がぐちゃぐちゃで、何を考えていたかすら忘れる。

この状況を打開すべく、ある事を習慣にした。

「毎週1回映画館に行く」

最初の週は苦戦した。映画の序盤、頭が「つまらん!」「スキップ!」と叫んでいる。
だが、スキップできないのが映画館の良いところ。逃げられない。

3週目くらいから、ちょっとずつ変わってきた。
登場人物の表情に、音楽の入り方に、じわじわと引き込まれていく自分がいた。
終わったあとの余韻が、妙に心地よかった。

久々に会った友達に「なんか落ち着いた?」って言われた時、悠は照れながら答えた。
      

「たぶん、俺の中の“再生速度”が、普通に戻ったんだよ」

      

※この作品はフィクションです。
登場する人物・団体・出来事はすべて架空であり、実在のものとは関係ありません。
一部の文章や画像に生成AIを使用しています。